国際金融安定性報告書

静寂さの下で進む地殻変動

2025年10月

概要

過大な資産評価やソブリン債市場の圧力、ノンバンク金融機関の影響力の高まりを背景に、金融安定性リスクが依然として高い。外国為替や新興国債券の構造変化は、これらの市場に新たなリスクと頑健性をもたらしている。

過大な資産評価や、ソブリン債市場の圧力の高まり、ノンバンク金融機関の役割の拡大といったリスクを背景に、金融安定性リスクが高止まりしている。

第2章では、世界の外国為替(FX)市場が、十分な流動性を有しているにもかかわらず、依然としてマクロ金融の不確実性に対して脆弱であることを示す。市場へのショックによって資金調達コストが上昇し、ビッド・アスク・スプレッドが拡大し、ファンダメンタルズを超えた為替リターンのボラティリティが増大する可能性がある。こうした圧力は、通貨のミスマッチ、一部のディーラーへの集中、NBFIの参入拡大などの構造的な脆弱性によって、増幅されている。FX市場のストレスは他の資産クラスにも波及し、広範囲に金融環境がタイト化する可能性がある。

現地通貨建てソブリン債の発行と国内投資家による購入が増えたことは、新興国市場の頑健性を下支えしてきたが、多額の借り入れや、一部の投資家層への過度な依存、不十分な政策枠組みにより、金融安定を巡るリスクが生じる恐れがある。

2025年10月「金融安定性報告書(GFSR)」

第1章:静寂さの下で進む地殻変動:金融市場が変わる中での安定性の課題

ここ数か月で、貿易摩擦や地政学的緊張が高まり、政府債務が増加し、ノンバンク金融仲介機関(NBFI)とステーブルコインが伸び続けている。市場はこうした状況の変化を十分に警戒していないようである。バリュエーションは2025年4月の「国際金融安定性報告書」の公表以降、過熱水準に戻り、金融環境も緩和している。

金融安定性リスクは高止まりしている。バリュエーションモデルでは、リスク資産の価格がファンダメンタルズをはるかに上回っていることが示されており、急激な調整が生じるリスクが高まっている。ソブリン債市場は、財政赤字拡大の圧力に直面している。また、ストレステストの結果、銀行とNBFIの相互連関性が高まり、資産・負債の期間構造のミスマッチが増大していることが明らかになっており、これはショックを増幅させかねない。これらの脆弱性は互いに作用し合う。資産価格の急落や利回りの急上昇を受け、銀行のバランスシートに負荷がかかり、オープンエンド型ファンドを圧迫するおそれがある。銀行とNBFIの相互連関性が高まれば、ショックがこれまで以上に金融システム全体へ波及する。

政策当局者は警戒心を保たなければならない。優先事項としては、インフレ対策における中央銀行の独立性の維持、政府赤字の抑制、バーゼルIIIのような国際的に合意されたプルーデンス基準の推進、などが挙げられる。金融セーフティネットの強化や、NBFIの監視の向上、ステーブルコインの効果的な規制も、国際金融の安定性を保つために不可欠である。

第2章:世界の為替市場におけるリスクと頑健性

外国為替(FX)市場は、ノンバンク金融機関の参入拡大やデリバティブ利用の増加を背景に、世界で最も大きく流動性の高い金融市場へと進化してきた。FX市場の成長により、市場流動性が高まり、リスク分散の機会は増えた可能性がある一方、市場はより複雑で相互連関性の高い状況となり、ストレスの影響を一段と受けやすくなっている。本章では、マクロ金融の不確実性の高まりがFX市場の機能度に及ぼす影響や、その金融システムの安定性への含意について検討する。不確実性の高い時期は、安全資産への逃避やヘッジ需要が増える傾向にあり、外貨調達コストが上昇したり、ビッド・アスク・スプレッドが拡大したりするほか、ファンダメンタルズを超えた為替リターンのボラティリティが増大しがちである。こうした圧力は、通貨の大幅なミスマッチや一部のディーラーへの集中、ノンバンク金融機関の参入拡大といった構造的な脆弱性によってさらに増幅される。FX市場のストレスは他の資産クラスにも波及して、金融環境が全体としてタイト化する恐れがある。特に、通貨のミスマッチが大きい国や財政状況が脆弱な国ではなおさらである。FX取引が拡大し続けていることにより、決済リスク(当事者の一方が売渡通貨を支払ったものの、取引相手から買入通貨を受け取ることができない可能性)が高まっているほか、市場はテクニカルな障害やサイバー攻撃などの業務執行上のリスクにもさらされている。政策当局者は、サーベイランスを強化し、金融機関に十分なバッファーを確保させ、国際金融セーフティネットや業務執行上の頑健性を強化することで、こうしたリスクを軽減することができる。

第3章:グローバルなショックと現地の市場:新興国のソブリン債市場を巡る情勢変化

本章では、債務残高の上昇やグローバルなショックに対する脆弱性の高まり、そして新興国債務市場の低調なパフォーマンスに伴う世界中の投資家の関心の低下などを踏まえ、新興国市場や発展途上国のソブリン債市場の動向を検討する。具体的には、国内投資家への国内発行増を通じて借り入れを拡充することができた主要な新興国市場と、国内銀行や中央銀行からの満期までの期間が短い資金調達と外貨建て債務に依存する必要があった他の新興国市場やフロンティア市場とを比較する。こうした違いによって、ショックが発生した際、より頑健な国とより脆弱な国の間での格差が深刻化する恐れがある。新たに行った実証分析によると、国内の投資家層が分厚い国では、過去15年間、グローバルなショックに対する頑健性が実際に高かったことが示された。ただし、国内の買い手が多いほど良いとは限らない。本章では、特に金融抑圧がある場合に、少数の国内投資家に過度に依存することから生じうるリスクについても検討する。最後に、強固で頑健な現地通貨建て債券市場を築くための政策アドバイスをまとめる。マクロ経済のファンダメンタルズを改善することは引き続き不可欠である一方、強固な政策の枠組みと頑健な金融市場システムも重要である。基盤となる市場インフラの整備、法的安定性の確保、公的債務管理慣行の強化が求められる。

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