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ノンバンクの拡大が浮き彫りにする新たな金融安定性リスク

ノンバンク金融仲介機関は銀行との相互連関性の高まりによって負のショックを増幅させかねず、政策当局者はその監督を強化する必要がある。

経済の不確実性が高まる中、過大な資産評価や中核的なソブリン債市場における圧力によって、金融安定性リスクが高止まりしている。こうした脆弱性は、ノンバンク金融機関の拡大に伴い、マーケットメーカーや流動性供給者、あるいはプライベートクレジット・不動産・暗号資産市場の仲介者としてのその重要性が高まるのに応じて増幅される恐れがある。

最新の「国際金融安定性報告書(GFSR)」において詳しく説明しているとおり、ストレステストの結果は、そうしたノンバンク金融仲介機関の脆弱性が中核的な銀行システムに即座に波及し、ショックを増幅させ、危機管理を複雑化させかねないことを示している。

誤解のないように言うと、政策当局者はしばらく前からノンバンクを注視している。保険会社や年金基金、投資ファンドなどがそれに含まれ、預金を受け入れていないものの、世界市場で次第に大きな役割を果たすようになっている。規制上の取扱いも大きく異なっており、保険会社向けには特化した監督枠組みがある一方、他の多くのノンバンク向けのプルデンシャル監督は包括的なものではない。

ノンバンクは資本市場活動を円滑化し、借り手に融資を供給する助けになりうるが、その拡大は金融システムにおけるリスクテイクと相互連関性も増大させる。今日、ノンバンク全体で、世界の金融資産の約半分を保有している。米国とユーロ圏では、今や多くの銀行で、ノンバンクに対するエクスポージャーがTier1資本、つまり、危機時に銀行が損失を吸収し安定を維持することを可能にする重要なクッションを上回っている。同様に、GFSRの分析章で示しているとおり、ノンバンクは今日、外国為替市場の日次取引高の半分を占めており、25年前と比べてシェアが倍増している。

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こうした金融仲介の変化は、リスク評価に対するより包括的で先を見越したアプローチを必要としている。銀行とは違い、ノンバンクはその大半が緩やかな健全性規制の下で事業を行っている。しかも、多くのノンバンクは資産やレバレッジ、流動性に関して限定的な情報開示しか行っておらず、脆弱性や相互連関性の検知を一層難しくしている。

英国やオーストラリアなどの一部の規制当局は、銀行とノンバンクの間の相互作用をより良く理解するために、システム全体のストレステストとシナリオ分析を導入し始めている。こうした取り組みを通じて、より質の高いデータや国内および国境を越えた連携の強化、変化についていくための規制のイノベーションの必要性が明らかになっている。

ノンバンクは、上で述べたようにプライベートクレジットや不動産、暗号資産など多くの経路を通じて金融システムにリスクを伝播させる可能性があり、政策当局者はそのすべてに注意を払う必要がある。そうした経路のひとつとして、最新のGFSRでは銀行に対する影響について取り上げている。IMFでは、数年前から、銀行部門の強靭性を評価するために、「グローバルストレステスト(GST)」を活用している。今回、われわれは、景気後退とインフレ進行、国債利回りの上昇が組み合わさったスタグフレーション・ショックのシミュレーションを行った。そのストレステストの結果、世界全体の資産の約18%を保有する銀行の普通株式等Tier1比率が7%を下回ることがわかった。この結果は過去の評価よりも改善しているものの、システム内部に一部脆弱な銀行が存在することを明らかにしている。

銀行とノンバンクの間で高まりつつある相互連関性を把握するために、われわれは波及リスクに焦点を当てた新たな分析の切り口をストレステストに取り入れた。その結果は注目に値する。信用格付機関による格下げや担保価値の下落といったノンバンクの望ましくない動向は、銀行の資本比率や流動性比率に大きな影響を及ぼしかねないのだ。

ノンバンクのリスクが増し、銀行から与信枠いっぱいまで借入を行うというストレスシナリオにおいては、資産ベースで米国の銀行の約10%、欧州の銀行の30%で自己資本比率が100ベーシスポイント超低下するすることになる。つまり、ノンバンク部門のストレスと並行して銀行の損失と自己資本減少が急激に拡大するということであり、ノンバンク部門の脆弱性が相互に連関していることを示している。脆弱性は中核的な銀行システムに即座に波及し、ショックを増幅させ、危機管理を複雑化させかねないのだ。

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ノンバンクが金融システムのストレスを増幅させるもうひとつの経路として、中核的な債券市場、つまり、より広範な市場にとってベンチマークとして機能する質の高い投資適格債券がある。オープンエンド型の投資ファンドにおける流動性ミスマッチがその仕組みの一例だ。投資家が出資持分を急いで売却する際に、償還に必要な資産の売却により多くの時間を要すると、流動性ミスマッチが生じる。市場のボラティリティが急上昇する場合、投資家の償還請求とマージンコールによって、そうしたファンドは最も流動性の高い資産の売却を余儀なくされる可能性がある。

米国のミューチュアルファンドを対象としたGFSRの分析では、2020年3月と同様の資金流出パターンが見られ、金利が80ベーシスポイント上昇すると仮定すると、やむを得ない債券売却が2,000億ドル近くに達し、その4分の3を米国債が占める可能性があることが示されている。極端なケースでは、売却がディーラーの仲介能力を圧倒し、市場の機能を混乱させ、資金調達市場に波及しかねない。こうした結果は、ミューチュアルファンドが適切な流動性管理ツールを備え、強制的な売却のリスクを軽減できるようにすることの重要性を浮き彫りにしている。

GFSRの別の分析章で示しているとおり、ノンバンクのソブリン債市場への関与の増大には、プラスの効果もある。ファンダメンタルズが強力な新興市場国は、年金基金や保険会社といった国内のノンバンクから自国通貨建ての借入を増やしている。新興市場国でノンバンクが保有する債券の割合の増加は、債券市場が世界的なショックに直面した際の流動性の改善と同時に起こっており、政府の銀行借入に対する依存度を下げた可能性が高い。

しかし、国内のノンバンクと外国のノンバンクを区別することも重要である。外国の機関は引き続き新興市場国資産の主要な投資家となっている。こうした投資は、市場が不安定化する場合には引き揚げられ、新興市場国の金融環境をタイト化させる恐れがある。このことは、ノンバンクが国境を越えて及ぼす影響について理解を深める必要があることを意味している。

政策の優先事項

金融の安定は、究極的には健全な政策と強靭な制度にかかっている。慎重な財政・金融政策、経常収支赤字や対外債務といった対外不均衡の制限、最後の貸し手としての実効的な緊急流動性支援が引き続き不可欠である。同時に、ノンバンクの重要性が高まる中で、政策当局者は金融システムの中核の強靭性を強化する必要がある。

IMFのGSTは、多くの銀行が依然として脆弱であることを示しており、バーゼルIIIをはじめ国際的に合意された基準を実施して資本と流動性を一層強化する必要性を浮き彫りにしている。脆弱な銀行に由来する波及効果から銀行部門を守ることは、再建・破綻処理の枠組みを前進させ、中央銀行の緊急流動性支援を強化することによって実現できる。

ノンバンクの重要性の高まりと、ノンバンクと銀行の結びつきは、監督の強化も必要としている。それは、より包括的なデータを収集し、システム全体の流動性の検証など将来を見据えた分析を向上させ、各部門の監督当局間の連携を強化することを意味する。

プライベートクレジットにより一層注意を払う必要があることは確かだ。ノンバンクの貸し手、特にプライベートクレジット・ファンドは近年急速に成長しており、透明性が低く、規制がそれほど厳しくないために、金融安定性リスクを高めている。最後に、ノンバンクによる流動性圧力とやむを得ない債券売却に対処するためには、オープンエンド型投資ファンド向けに流動性管理ツールの利用可能性と有用性を改善・拡充することが不可欠である。

本ブログ記事は、2025年10月「国際金融安定性報告書(GFSR)」の第1章「静寂さの下で進む地殻変動:金融市場が変わる中での安定性の課題」に基づいている。詳しくは、最近の解説ブログ記事「ノンバンク金融の台頭が形作る5つのメガトレンド」を参照。