IMF世界経済見通し

変動期の世界経済、
見通し依然暗く

2025年10月

概要

短期的予測はやや上方改定されたが、新たに導入された政策が徐々に明確になるなかで、世界の経済成長は低迷し続けている

世界経済は、新しい政策措置によって再形成せれた環境に適応している。極端な高関税の一部は、その後の協定と修正によって緩和された。しかし全体的な情勢は依然として不安定である。また、貿易の前倒しなどの、2025年上半期に経済活動を支えた一時的な要因が、薄れている。

その結果、最新の「世界経済見通し(WEO)」の世界経済成長率予測は、2025年4月のWEOからは上方改定されたものの、政策転換前の予測を依然下回る。世界成長率は、2024年の3.3%から2025年は3.2%、2026年は3.1%に鈍化する見通しであり、先進国の成長率は約1.5%、新興市場国と発展途上国の同率は4%をやや上回ると予測している。世界のインフレ率は減速し続ける見込みだが、国によるばらつきがある。米国では、インフレ目標を上回り、リスクも上振れている一方で、残りの地域ではインフレが抑制される。

リスクは下振れしている。不確実性の長期化や、保護主義の拡大、労働供給のショックは成長を阻害しかねない。財政の脆弱性、金融市場の調整が起こる可能性、そして制度の弱体化は安定性を脅かす恐れがある。

政策当事者には、信用できる透明で持続可能な政策を通じて、信頼を回復することが求められている。貿易外交をマクロ経済的調整と組み合わせるべきだ。財政バッファーを再構築する必要がある。中央銀行の独立性は守らなければならない。構造改革の取り組みを強化すべきである。第2章が示すように、政策枠組みを改善する過去の取り組みは各国にとって有益であった。第3章が示している通り、産業政策にも果たせる役割があるかもしれないが、実施するにあたり機会費用とトレードオフを十分に検討すべきだ。

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世界経済の成長率予測

2025年10月「世界経済見通し」の各章

第1章 : 世界経済の見通しと政策

世界経済の成長率は減速する見込みであり、保護主義と分断化が拡大する状況に世界が適応する中で、成長の見通しは依然、暗い。総合インフレ率は世界全体でさらに減速すると見込まれるが、一部の国ではインフレ目標を上回っている。経済見通しのリスクは下振れている。不確実性の長期化や保護主義措置の激化は、成長をさらに抑制する可能性がある。労働供給への予想以上のショックは、高齢化やスキル不足に直面する国々を中心に、成長を阻害することが懸念される。財政と金融市場の脆弱性は、借入コストの上昇や国家の借換リスク増大と作用し合うかもしれない。テック株の急激な価格調整が起これば、マクロ金融の安定性が脅かされる恐れがある。重要な経済機関の独立性に対する圧力は、健全な経済的意思決定を損ないかねない。世界経済が変動する中、政策当局者は、信用できる透明で持続可能な政策を通じて、信頼を回復することが求められる。

第2章:新興市場国の強靭性:運の良さか、政策の良さか?

新興市場国は近年のリスクオフ・ショックに対して驚くべき底堅さを示している。有利な外部環境(つまり幸運)がそうした底堅さに寄与した一方、政策枠組みの改善(つまり良い政策)もリスクオフ・ショックに対する新興市場国の耐久力を高める上で重要な役割を果たした。金融・財政政策の実施と信頼性の向上によって為替介入への依存度が低下するとともに、中央銀行は財政政策の影響を受けにくくなり、国内の借入環境に対して影響力を行使している。この先、強固な枠組みを備えた国では政策トレードオフが容易になり、リスクオフ局面を乗り切りやすい状況が生まれる。反対に、枠組みがより脆弱な国では、特に持続的な物価圧力が生じた場合、金融引き締めが遅れると、インフレ期待が不安定化し、GDPの損失が拡大する恐れがある。こうした状況では、コストの大きい為替介入は一時的な救済にしかならない。政策枠組みが健全であれば、その必要性が減る。

第3章:産業政策:成長と強靭性の促進に向けたトレードオフの管理

各国は、戦略的な部門や企業を支援することで自国経済の再編を図るべく、産業政策をますます活用するようになっている。その動機としては、生産性の向上や、とりわけエネルギー分野における輸入依存の低減、あるいは強靭性の強化などがある。産業政策は国内産業を活性化させる助けになりうるが、その効果は各産業固有の特性によって左右され、それを予め特定することは難しい。さらに、産業政策はトレードオフを伴う。ある戦略的部門で生産の国内回帰を進めれば、長期間にわたる消費者物価の上昇につながる可能性がある。そして、債務が高水準にあり、財政制約がある時には、産業政策の財政コストが相当なものになりかねない。産業レベルの成果が良好だとしても、産業政策は部門横断的な負の波及効果を生み、対象外の部門から非効率的な形で資源を引き離すことにより全体的な生産性を押し下げる恐れがある。産業政策が効果を上げるためには、慎重な対象設定と実施、強力な制度、補完的な構造改革、健全なマクロ経済政策が必要となる。