貿易の逆風を乗り切り、成長の不均衡是正を図る
第1章 アジア太平洋地域の見通し
アジア太平洋地域の経済は、国内外の課題がある中で、2025年に底堅さを示しており、上半期の経済成長は予想を上回った。しかしながら、米国の関税引き上げや保護主義の高まりは、アジアの輸出に対する需要を押し下げ、いずれは短期的に成長の重石となる可能性が高い。国内では、成長の減速傾向と社会的緊張がさらなる課題をもたらす。こうした状況の中、経済成長の底堅さと持続可能性を高めるための改革が非常に重要となる。具体的には、地域経済統合の進展をサポートし、サービス部門を支援し、金融仲介の効率を上げ、不適切な資本配分を是正し、人口高齢化の影響を緩和し、将来のショックに備えるべく政策枠組みを改善しなければならない。
第2章 バリューチェーンの再編:アジア太平洋で貿易統合を深化させるべき理由
アジア太平洋地域では数十年にわたって貿易の急速な伸びが見られたが、2025年に発表された米国の全面的な関税によって世界の状況は変わりつつある。本章のエビデンスは、2018-19年の米中貿易摩擦時に生産が中国から前提条件が有利な一部の国へと移転したように、アジア太平洋のサプライチェーンが関税の差に敏感に反応することを示している。最近の貿易政策の動向によって、リスクが高まり、重大な課題が浮上している一方で、アジア域内の統合深化が持つ未開の可能性も強調された。シミュレーションの結果は、域内および世界全体で貿易障壁を削減することによって、大きな経済的利益が得られることを示している。同時に、包摂的な成果を確保するためには、労働者が過渡期を乗り越えられるよう支援する補完的な政策も必要になるだろう。競争力強化のための改革を支えに、貿易と外国直接投資の開放を促進する政策を実施することが、貿易を成長の原動力として維持する上で重要である。
第3章 投資の効率性と資本の配分:金融構造の役割
世界金融危機以降、成長の減速と世界貿易の分断化の進行によって、アジア太平洋地域では国内の成長原動力を強化する必要性が浮き彫りになっている。域内の高い投資率は資本集約型の成長を優遇する金融構造に依存してきたが、近年、不適切な資本配分の拡大と投資リターンの低下が見られる。こうした傾向は、部分的には金融仲介の非効率性に起因している。金融機関は、小規模で生産性の高い企業よりも大規模で生産性の低い企業を優遇しており、また、追い貸し(エバーグリーニング)が増加している。こうした課題に対処するには、より広範囲の企業向けに資金調達オプションを拡大することで金融仲介を改善し、回収不能な債務の迅速な再編を支援する政策が必要となる。経済の発展に応じた効率的な資本配分のためには、資金調達手段の拡充が不可欠である。こうした改革は、広範な成長を促進し、資本配分を改善し、雇用と所得の伸びを押し上げ、内需を刺激し、経済の不均衡是正を促す。