地域経済見通し

先行き不透明感漂う中、景気回復衰えず

2023年5月

2023年5月 アジア太平洋地域経済見通し

世界経済は、金融の引き締めとロシアのウクライナでの戦争が引き続き経済活動に重くのしかかる中で鈍化しており、2023年は困難な1年になりそうだ。根強いインフレ圧力に加え、米国と欧州における金融部門の問題により、経済情勢が既に複雑だった中で、先行き不透明感が一段と増した。

 こうした陰りが見える中でも、アジア太平洋地域は力強さを保っている。2022年末にかけてテクノロジー部門の輸出への需要が低迷するなど外需が弱まり、金融引き締めがあったにもかかわらず、中国経済の再開が新たな推進力となって、内需はこれまでのところ堅調に推移している。今年のアジア太平洋地域の成長率は、2022年の3.8%から4.6%に加速する見通しで、2022年10月の「世界経済見通し」から0.3%上方改定された。この地域が世界経済の成長の約70%に寄与することを意味する。アジアの力強さは、主に中国経済の持ち直しとインド経済の底堅さによるもので、その他の国の成長は、他の地域と同様に2023年に底を打つと予想される。

しかし、この力強い見通しは、域内の政策当局者が油断する余裕があることを示しているわけではない。世界的な需要の減少による圧力が見通しに重くのしかかるだろう。総合インフレ率は和らいでいるが、依然として大半の国で目標を上回っており、コアインフレ率は根強く高止まりしている。これまでのところ、欧米の銀行部門における混乱の波及は限られているものの、企業・家計部門を中心に、世界的な金融引き締めや不安定な市況への脆弱性が依然として顕著である。同地域の成長率は5年後には3.9%に減速すると予想されており、これは中期予測として数十年ぶりの低水準である。世界成長率の中期見通しが1990年以来最も低い水準のひとつに落ち込むとの見方の一因となっている。

リスクは下振れ方向に傾いている。世界および域内の物価圧力が高止まりする可能性や、市場が予想する金融政策の道筋と主要中央銀行のコミュニケーション間の相違、国際金融市場のさらなる混乱、中国の中期的な成長が鈍化することによる地域への打撃、地経学的な分断の深刻化が要因だ。

金融政策は、物価上昇率が安定的に目標内に落ち着くまで引き締め姿勢を維持するべきである。例外は、産出量が潜在生産能力を下回り、インフレ期待が抑制されている中国と日本である。金融市場のストレスが高まったり、金融の安定性が脅かされたりしない限り、中央銀行は金融政策の目標と金融安定化の目標を分けるべきだ。金融安定性リスクに対処するためのツールを活用することで、インフレ圧力に対処するために政策を引き締め続けることが可能となる。

公的債務水準が高止まりし金利コストが上がっている中、財政再建を継続、場合によっては財政再建を加速する必要がある。これによって、的を絞った措置で脆弱層を保護しながら、インフレとの闘いを支えることもできる。金融安定性を守るためには、企業・家計部門における債務負担の増加や、金融部門における市場リスクおよび企業の信用リスク・エクスポージャーに関連する脆弱性を監視することが不可欠である。潜在成長力を押し上げるためには、イノベーションとデジタル化、グリーンエネルギーへの転換の加速、分断化によるリスクの軽減、食料安全保障の確保を通じた構造改革が必要である。

アジア太平洋地域の成長率予測