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ゆっくりと展開するいくつかの経済トレンドが、長期的に金融政策に影響を及ぼす

先進国は、金融政策の進め方に影響を与えるいくつかの主要な長期的構造の変化に直面している。こうした進行中の変化は必然的に、自然利子率(インフレ率と産出量が最適になる水準)と、金融政策の伝わり方に影響する。

グリーン経済への移行

2050年までに排出量正味ゼロを達成するためには年間のクリーンエネルギー投資が2030年までに4兆ドルに達する必要がある。1

グリーン経済への移行には、化石燃料から風力と太陽光を中心とする再生可能エネルギー源へ、リソースを大幅に再配分しなければならない。移行には、投資の大幅な増加が不可欠であろう。何らかの形の補助金によって促進されるかもしれない。投資需要が増えると、自然利子率が上昇する傾向があるため、グリーン経済への移行では、中央銀行がより高い政策金利を支持しなければならない。

在宅勤務

過去5年間で、在宅勤務は44%増加した。2

在宅勤務は、労働力の供給と労働生産性というふたつのチャネルを通じてインフレ動向を形成する。在宅勤務は、家計が提供できる労働時間を増やす傾向がある。つまり労働者は、仕事を在宅でできる場合、給与の削減を受け入れる。ただし、在宅勤務の環境では効率的でない仕事もあり、労働時間あたりの生産性が低下する。生産性の低下が労働力の供給の増加を上回ると、これらふたつの力が働き、企業の限界費用が増える傾向がある(したがって、インフレ圧力がかかる)。生産性は家計の需要にも影響する。生産性が低下することで、労働者は将来賃金が減少すると見通すため、モノに対する需要が減り、物価の押し下げ圧力がかかる。それらがどのように展開するかによって、金融政策に対する要求が形作られる。

脱グローバル化

貿易開放度は2008年に60%でピークに達し、それ以降は減少している。3

脱グローバル化により、貿易障壁ができ、非効率的な産業への資源再配分が促進されることにより、国が貧しくなる傾向がある。生産量が低迷することで歳入が減る可能性があり、政府が歳出を削減したり増税したりすれば、財政主導型のインフレが起こる可能性がある。需要と供給によってインフレの力が加わるが、インフレ圧力の強さは、その国が主に輸入国か輸出国かによって異なる。輸入国は国外からモノを購入することがより困難になるため、国内でインフレ圧力が高まる。対照的に、輸出国は国外からの将来の収入が減るとの見通しから、家計の需要が縮小する。

人口動態

世界の 60 歳以上の人口が2050年までに倍増する。4

人口動態の変化は、需要・供給・政治圧力を生み出す可能性がある。人口高齢化により、個人が退職に備えて貯蓄するため需要が減り、これにより自然利子率が一時的に低下する。供給面では、労働参加率が低下することで潜在的産出量が減り、所得の伸びが鈍化し、個人が将来に向けて貯蓄することを促す。 人口高齢化への移行が完了した後は、退職者が勢いよく貯蓄を消費する傾向があるため、貯蓄圧力が弱まる可能性がある。また、労働参加率が安定する。したがって、長期的には、人口動態の変化が実質金利やデフレの恒久的な低下につながるのか、また、それが金融政策にどのような影響を与えるのかは明らかでない。

中央銀行デジタル通貨

現在、100か国以上がCBDCを模索している。5

目下のデジタル通貨革命の一部である中央銀行デジタル通貨(CBDC)の出現により、中央銀行はCBDCの金利を直接設定できるようになり、今のように銀行を通じて間接的にではなく、金融政策を家計に直接伝達できるようになる。銀行は、金利の変化を家計に完全には転嫁しない。金利が上昇した場合は特にそうだ。したがって、中央銀行による政策金利の引き上げは、預金金利をそのまま引き上げるわけではない。

CBDCの導入は、経済における中央銀行の役割を形成する上でも重要である。中央銀行がデジタル通貨を家計に直接発行する場合、バランスシートを恒久的に拡大することになるだろう。中央銀行は、拡大したポートフォリオを国債に投資して財政政策を強力に支えるか、民間部門に融資して特定の産業への投資を促進するかを決められる。投資判断が政治に左右される可能性があるため、中央銀行は、独立性があるとの信頼を注意深く確立しなければならない。

プリンストン大学のマーカス・K・ブルネルマイヤーの研究に基づいてF&Dスタッフが作成。


1 国際エネルギー機関 
2 ノースワン 
3IMF スタッフ・ディスカッション・ノート2023/001 
4 世界保健機関  
5米シンクタンク「大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)」  

記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。