アジア太平洋地域

2020年10月 アジア太平洋地域経済見通し

2020年10月

概要

パンデミックを切り抜ける
ばらつきが見られるアジアの回復ペース

PDF版

新型コロナウイルスのパンデミックが今も世界各地で続いている。アジアでも、他の地域と同様に、ウイルスの勢いが衰えている国もあれば、増している国もある。各国で全国的なロックダウン措置が解除され、より対象を絞った感染拡大防止策に移行する中で、世界経済は2020年第2四半期の大幅なマイナス成長から回復し始めている。2020年の世界経済の成長率は、20206月の「世界経済見通し(WEO)改訂見通し」から上方修正されて、マイナス4.4%になると予測されている。これは、一部の主要国でロックダウン措置の縮小後に経済活動が予想よりも早く改善し、第2四半期の実績値が予測を上回ったことに由来している。2021年には、世界経済はプラス5.2%の成長を遂げると予測されている。これは以前の予測を若干下回るものであり、社会的距離の確保が2021年中も続いた後収束に向かうという見込みと整合的である。

アジア太平洋地域においてもひとまず回復が始まっているが、そのペースにはばらつきが見られる。2020年には、主要新興市場国における予想以上の経済活動の低迷によりマイナス2.2%成長となるが、2021年にはプラス6.9%成長と予測されている。これは、20206月の「世界経済見通し(WEO)改訂見通し」と比べて、それぞれ0.6ポイントの下方修正と0.3ポイントの上方修正となっている(図1.1)。

IMF

見通しは国によって様々であり、感染率や感染拡大防止措置、政策対応の規模と有効性、対人接触の多い活動への依存度、外需への依存度による。アジアの中でウイルスの感染率が低い地域では、他の地域よりも早く移動や活動が平常に戻ることはありうる。しかし、後遺症が残る可能性はある。労働市場参加率が低下しており、産出量が中期的にパンデミック前のトレンドを下回り続けると予測される中で、社会の最も脆弱な層が最も大きな打撃を受けると見込まれる。

 

 

予測は依然として不確実性が高く、下振れリスクは大きい。パンデミック再発の可能性も排除できない。地政学的緊張、特に米中間の貿易や安全保障上の懸念は、回復を頓挫させかねない。最も貧しく脆弱な層へのパンデミックの過度な影響は、社会不安を高め、近年ようやく得られた進歩を危うくする。また、金融市場でリスク回避が再び進めば、バランスシートの脆弱性が増大しかねない。一方で、有効なワクチンが早期かつ大規模に供給されるという可能性は、上振れリスクである。

パンデミックの収束にはほど遠いと見られることから、政策支援の継続、場合によってはその強化が求められる。パンデミックの勢いが弱まるまでは、医療と感染拡大防止に係る強力な対策が不可欠である。景気回復が確実になるまでは、対象を絞った財政支出が必要となる。それは、財政乗数が最も高い最脆弱層に照準を合わせ、また、雇用重視かつ包摂的でグリーンな投資を志向するものとすべきである。将来的には、債務の持続可能性を担保する上で、信頼性のある財政計画が鍵となる。金融政策は引き続き景気を下支えすべきである。信用リスクの上昇に伴い、特に債務水準が高い場合には、継続的な監視が求められる。政策担当者は、働く人々を労働力としてつなぎとめることや、健全な企業のビジネスを継続することに一層努力する必要がある。一方で、存続不可能な企業を退出させ、新たなビジネスが起こり新たな雇用機会を生むよう促し、危機の後遺症を避ける必要もある。

今回の「地域経済見通し」は、新型コロナの影響を分析した研究を利用している。第3章では、感染拡大防止措置と関連の政策措置が公衆衛生上の成果と経済活動に及ぼした影響について検証している。検査と接触者追跡に関する強力な政策に支えられつつ、感染拡大防止措置を迅速に実施し適切な時期に終了することが、多くのアジア諸国において、経済的損失を抑えながら新型コロナの感染拡大に歯止めをかける鍵となってきている。財政支援も、経済的損失を軽減し、景気回復を支え、危機の後遺症を軽減する上で極めて重要となってきている。第4章では、低所得労働者や女性、若者が危機によって最も大きな影響を受けており、それゆえに格差が拡大しつつあることに警鐘を鳴らしている。こうした分配効果は、ロボットが低技能労働者に取って代わることで、中期的にはさらに大きくなる可能性があり、それに伴う格差拡大によって社会的結束が損なわれかねない。各種政策は、パンデミックがもたらす負の分配効果を緩和するとともに、経済活動全般とウイルス感染抑制を支えることを目的とすべきである。