公的債務は、2020年代末までに世界の国内総生産(GDP)の100%近くに達すると予測されており、パンデミック時の最高水準さえも上回る見込みだ。新興市場国や発展途上国を中心とする各国では、債務返済コストが増大し、政府予算の余地が縮小している。その結果、社会的なプログラムや投資のためのリソースが減り、ショックに対応する能力が低下し、借り入れコストが上昇している。
各国は、債券の発行を増やすほか、ますます複雑で不透明な形態の資金調達に頼るようになっている。官民パートナーシップや国有企業(SOE)、年金基金と結びついた保証債務、証券化債務、債務担保契約といった新しい債券が登場している。こうした手段の新規性や複雑さゆえに、現在ではより多くの債務が政策当局者や国民に分からない状態となっている。これは、債務再編の過程で明るみに出ることがよくあり、それでは遅すぎるのだ。
隠れた債務が顕在化すると、国の財政を正確に示す政府の行政能力やデータに対する信頼が損なわれかねない。これは借り入れコストの上昇につながりかねず、隠れ債務の規模が相当な場合には債務の持続可能性が危うくなり、債務危機を引き起こす恐れがある。
簡単に言えば、見えないものを管理することはできない。だからこそ、山積する債務を取り巻く霧を晴らさなければならないのだ。借り手国と債権国の両方に適切な法律があり、その法律で求められる報告と債務管理を実施するための強力な制度が必要となる。債務の透明性は明らかに公共財だ。
法律の本質的な役割
法律は債務の透明性の土台となる。公的債務は非常に重要な要素であるため、行政府または立法府が国に代わって借り入れる最終的な権限を持っているかどうかという点は、多くの国の憲法で詳しく定められている。法律は、誰が国に代わって有効な融資契約に署名できるか、そして国の資源を担保として使用できるかどうか、そしてどのような条件下で使用できるかを示す。同時に、多くの場合、公的債務に関する法律は依然として不十分であったり、曖昧であったり、十分に施行されていないことがわれわれの調べで明らかになった。
IMFは最近、法改正と債務の透明性に関する会議を主催し、政策当局者、借り手国・債権国の代表者、市民社会組織、民間部門、学界が一堂に会した。会議の目的は、法的枠組みと債務透明性の関係について、われわれの共通の理解を深めることだった。
この会合は、IMF法律局が債務関連法に関する最近のレビューを終えた後に開催された。同レビューでは、85か国で大きなギャップが見つかった。例えば、調査対象国のうち、債務管理と財政報告が法律で義務付けられている国は半数に満たない。つまり、債務管理に責任を負う政府機関や事務所が特定されていないのだ。ある国が特定の種類・額の借り入れや債券発行に対処できるかは、政策当局者や国会議員が完全に理解していることはない。多くの場合、公的債務の法的定義は狭すぎ、国有企業や地方政府の融資などが除外されている。その結果、ある種の債務は国家が認識しないこととなる。この負債は、監視されることなくバランスシート外で蓄積される。
当局は、公的債務に関する決定について説明責任を問われるべきである。つまり、国家の監査機関が公的債務に関する監査を実施し、それを報告する権限を持つべきである。
隠れ債務の問題を克服するために、各国は他に何をしなければならないのか。
- 債務の開示を規定する公的債務管理に関する法律を制定する。政策や政治的優先事項は変わるかもしれないが、法的義務は変わらない。強力な法的枠組みは、何が公的債務とみなされ、誰が借り入れることができるか、そして何を開示しなければならないかを定める。
- 法律を実施する。一部の国は、堅実な法律を採用した後、それらが実際には無視されることになる。究極的には、法律はそれを施行するシステムや制度が重要なのだ。
- 合意形成を構築し足並みを一致させるための架け橋として法改正を活用する。重要なのは良いルールだけではない。レジリエンスも重要だ。法改正は、債務の透明性を短期的な政策から長期的な公的コミットメントへと変えることができる。経験則によれば、政府や市民社会、国際社会、債権者のコミュニティの利害関係者がすべて関与すれば、改革が実施され、擁護される。
IMFは長年にわたり、債務の透明性に関して広範な取り組みを行ってきた。
- 2023年の政策ペーパー「公的債務の公表」では、情報開示の欠如の根底にある要因と、改革におけるIMFの役割について検討した。その結果、低所得国と新興市場国において債務開示の大きなギャップが見られ、そのギャップは非市場性証券やSOE債券の割合が増加していることに起因している。
- IMFの債務上限政策では、一国の公的債務の保有者の公表を含め、債務情報のより詳細な開示を求めるようになった。
- 近年、IMFが加盟国を対象に毎年実施している4条協議では、データの妥当性について、より構造化された透明性のある評価を後押ししている。債務データを含むこの評価は、より広範なデータ問題に関する当局との議論の材料となり、能力開発を通じて財政および公的債務の透明性枠組みを改善するための取り組みを優先する。
- IMFは債務の透明性に関する技術支援と研修も拡充しており、過去2年間に債務管理だけでも200回以上の能力開発を実施してきた。法律局は、法の再検討や、診断のミッション、助言サポート、法令の起草を通じて、この分野における能力開発の取り組みを拡大してきた。
結局のところ、透明性はデータ収集だけではない。明確な法律や、制度的説明責任、国民の信頼も関係している。国の政治を立て直すのも重要だが、そこにたどり着くためには、強固な基盤、つまり、適切な法律とそれを実行する強力な制度が必要だ。