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エネルギー価格の高騰、来年まで和らがない可能性も

アンドリア・ペスカトーリ   マルティン・ストューマー   ニコ・ヴァルクス  著

天然ガス価格の高騰は、世界のエネルギー市場のほか、工場から電力などほかの経済部門に波及している

異例な要因の組み合わせが世界のエネルギー市場を揺るがしており、1970年代のエネルギー危機の記憶がよみがえる。すでに不透明感が漂うインフレと世界経済の見通しが複雑化している。

天然ガスのスポット価格は欧州とアジアで4倍以上になり記録的な水準だ。価格急騰の継続期間と世界的な広がりはかつてないほどである。通常、こうした価格変動は季節的なものであり、地域が限られている。例えばアジアでは昨年、同様な値上がりが見られたが波及はせず、欧州ではアジアの値上がりに関連した価格上昇はなかった。

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エネルギー価格は、暖房需要が後退し供給が調整される来年初めには、より通常の水準に戻るとみている。しかし、物価がこれまでのように高止まりすれば、世界経済の成長を妨げかねない。

また、石炭や原油市場にも波及効果が現れている。暖房や発電用の天然ガスの代わりを求める買い手が増える中、世界の基準であるブレント原油価格は最近、すでに供給が逼迫していたこともあり1バレル=85ドルを超え、7年ぶりの高値を付けた。最も近い代替燃料である石炭は、発電所の利用が増えるにつれて需要が高まっている。これを受けエネルギー価格は2001年以来の高値を付け、欧州の炭素排出権コストが上がった。

需要の急減、急増、そして供給不足

価格の動きを理解するにあたり、新型コロナウイルの感染拡大を抑制するための規制によって世界中で多くの活動が停止したパンデミックの当初を振り返ることに意味がある。経済活動が停止したことでエネルギー消費が急減しエネルギー企業は投資を削減した。しかし、天然ガス消費の約20%を占める鉱工業生産がけん引する形で天然ガスの消費は素早く回復し、供給が比較的少ない中で需要が増えた。

実際のところ、労働力不足やメンテナンスの滞り、新規プロジェクトの準備期間の長期化、化石燃料のエネルギー企業に対する投資家の関心の低さなどにより、価格シグナルへのエネルギー供給の反応は遅い。例えば米国の天然ガス生産は危機前の水準を依然として下回っている。オランダやノルウェーの生産も減った。欧州最大の供給国であるロシアは最近、欧州への出荷ペースを落としている。

天候もガス市場の不均衡を拡大する要因だった。北半球の厳しい冬の寒さと夏の暑さが冷暖房需要を押し上げた。また、米国やブラジルでは、干ばつによって貯水池の水が減り水力発電が減ったほか、北欧では今夏から秋にかけて風力発電が平均以下となり、再生可能エネルギーの発電量が減った。

石炭の供給と在庫

石炭は天然ガス不足を補うことができるが、石炭も供給の一部が途絶している。オーストラリアから南アフリカまであらゆる地域で、物流や天候に関連した要因によって生産が停滞している。また、世界最大の生産国と消費国である中国では、石炭の使用と生産を再生可能エネルギーやガスに転換するという排出目標のもと、石炭の生産量が減っている。

実際、中国の石炭の在庫は記録的な低水準にあり、冬に発電所が燃料供給不足に陥るリスクが高まる。欧州では、冬を控える中で天然ガスの在庫が平均を下回っており、電力会社が寒さの到来前に希少な資源を奪い合うため、価格上昇のリスクが高まっている。

エネルギー価格とインフレ

石炭と天然ガスの価格は、原油に比べて消費者価格への影響が小さい傾向がある。これは、家庭の電気料金や天然ガス料金が多くの場合規制されており、価格が原油より固定されているためである。それでも、工業部門では、化学薬品や肥料を作るために燃料に依存する生産者が天然ガス価格の上昇に直面している。こうした状況は、サプライチェーンの混乱や食料価格の上昇、需要の高まりなどですでに不透明なインフレ見通しに影響しており、主要な懸念事項である。

もしエネルギー価格が現在の水準のままであれば、今年の世界の化石燃料生産の国内総生産に占める割合は4.1% (7月の予測) から4.7%に上昇する。来年は、7月の予測であった3.75%から最大4.8%に上昇する可能性がある。原油とガス、石炭のコスト上昇要因は半分が供給の減少によるものと想定すると、今年の世界経済成長率は0.3%ポイント低下し、来年は0.5%ポイント低下することになる。

エネルギー価格、来年は正常化

供給の混乱と価格圧力は、パンデミックからの不均一な回復に取り組んでいる世界にとって前例のない難題だが、政策当局者にとって明るい兆しは、この状況が1970年代初頭のエネルギーショックと比にならないことだ。

当時、原油価格は4倍に跳ね上がり、家計や企業の購買力を直撃し、世界的な景気後退を招いた。ほぼ半世紀経った今、石炭と天然ガスが世界経済において当初ほど主要な役割を果たしていないことを踏まえると、エネルギー価格がもっと大幅に上がらなければこのような劇的なショックは起きない。

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また、先物市場でも示されているように、欧州とアジアで冬季が終わり、季節的な圧力が和らぐため、天然ガス価格は第2四半期までに正常化すると予想される。石炭と原油の価格も下がる可能性が高い。しかし不確実性は依然として高く、少しでも需要ショックが起きれば新たな価格高騰につながる可能性がある。

難しい政策判断

つまり、中央銀行はエネルギーの一時的な供給ショックによる価格圧力を気にするべきでない一方、インフレ期待の不安定化という具体的なリスクが現実化した場合には、金融の枠組みが脆弱な国を中心に、迅速に行動する用意があるべきだ。

政府は、電力会社が採算が合わなくなった場合に発電を減らし停電が起きるという事態を防止するために行動すべきだ。特に中国での停電は、化学品や鉄鋼、製造業の活動に打撃を与え、消費財の販売がピークとなる季節に世界的なサプライチェーンの混乱が悪化する恐れがある。最後に、公共料金の値上がりは逆進的であるため、低所得世帯への支援は最も脆弱な人口へのエネルギーショックの影響を緩和するのに役立つ。

 

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アンドリア・ペスカトーリIMF調査局コモディティ室長兼「Journal of Money, Credit and Banking」の編集委員。金融・財政政策を含むさまざまなマクロ経済のテーマについて幅広く執筆し、査読された学術誌に掲載されている。IMFの前はクリーブランド連邦準備銀行でエコノミストを、米連邦準備制度理事会(FRB)で理事を務めた。

 

マルティン・ストューマーIMF調査局コモディティ室のエコノミスト。エネルギーと一次産品、エネルギー転換に焦点を当てたマクロ経済学を研究する。Macroeconomic DynamicsJournal of International Money and FinanceEnergy Economicsなどに記事を掲載している。IMFの前はダラス連邦準備銀行のリサーチ部門でエネルギー・グループに属し上級リサーチエコノミストを務めた。ボン大学ドイツ校で経済学博士号を取得。

 

ニコ・ヴァルクスIMF調査局の上級エコノミスト。エネルギー市場と気候変動リスクに焦点を置く。現職の前はIMFの金融資本市場局に属し国際金融安定性報告書の構造的な金融動向に重点を置いていたほか、香港特別行政区とウガンダの金融セクターに関する評価とレビューのリーダーを単独または共同で務めた。欧州局ではユーロ圏の金融政策、金融部門の政策に注力した。IMFの前は欧州中央銀行とオランダ中央銀行で金融安定性と調査部門に在籍。ルーヴァン大学で経済学修士号を、UFSIA(アントワープ大学)で応用金融経済学の博士号を取得。