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最も優秀な人材へのアクセスは、一国の可能性を拡大する

 

世界で最も才能のある人材を惹きつける国は、人口高齢化と生産性の低下によって高まる経済的圧力を克服することに最も成功するであろう。しかし、移民は必ずしも人気があるわけではない。私が著書で「贈り物」とするグローバル人材の流れは、止まってしまうのだろうか。それは絶対にない。ただ、政策当局者は新しい枠組みを必要とする。 

なぜこのように楽観的なのか。アフリカやその他一部の新興市場国以外の多くの国で労働力不足の問題が迫っているにもかかわらず、米国やオーストラリア、カナダ、英国、欧州の大部分、その他の地域で、移民に対する国民の支持が最近、低下している。しかし、この支持の低下は、多くの場合、歴史的に高い水準の支持率と比べたものである。1960年代以降続いているギャラップ社の調査によると、米国における移民に対する全体的な支持は、2020年代初頭にピークに達した。その後、支持率は急激に低下しているが、依然2010年の水準に匹敵しており、それより前の数十年を上回っている。

さらに、最近の世論調査では、雇用や経済を重視した移民に対する広範な支持が引き続き示されている。2024年のエシュロン・インサイト社の世論調査では、米国における高技能移民に対する幅広い支持が両政党の支持者間で見られた。雇用に基づく移民については、グローバルな人材の恩恵を受け入れ国でどのようにより広く共有するかについて新たな考え方が必要となる。それについては重要な議論が待ち受けているが、全体的な傾向としては依然として、移民に対してかなり支持的である。

人材が果たす重大な役割

いくつかの基本的なデータから、移民と人材の関連性が浮き彫りとなる。まず、非常に才能のある人材は、一般の人よりも高い割合で移住する。大卒の労働者の約5.4%が母国以外に住んでいるのに対し、高卒の労働者は1.8%である。さらに、発明家とノーベル賞受賞者の移住率はそれぞれ、大卒労働者の2倍と6倍である。その結果、多くの移民受け入れ国では、特に科学と工学に関連する分野で、熟練労働者に占める外国人の割合が高く、そして、増えている。

また、熟練移民が狙う場所は、特定の場所であることが多い。1970年代以降、知識労働が爆発的に増加し、それに伴いイノベーションにおける地理的な変化が見られた。米国特許のこの変化を定量化した私のブラッド・チャターグーン氏との研究は、300以上の大都市圏のうち、6つのテックセンターにおける特許のシェアが1975年~1979年の11.3%から2015年~2019年には34.2%に倍増したことを示す。同様の主要なクラスターが、クリエイティブ・メディア業界、金融業界、高成長の起業家にも見られる。

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グローバルな人材は、これらの人材クラスターの形成において中心的な役割を果たしている。いや、主役であると言えるだろう。教育や就職のために海外から新たに到着した人々は、最も魅力的な機会を求める傾向がある。グローバル人材がクラスターを拡大し、生産性を押し上げると、そのクラスターの価値が高まり、次に到着する人々にとってさらに魅力的なものになる。また、クラスターは、グローバル市場向けの知識労働が中心であるため、多くの人材を ひとつの場所に詰め込むことができる。(歯科医を同様にひとつの都市に詰め込むことはないだろう)。

このプロセスには歓迎すべきことがたくさんある。そして、生産性と厚生改善はゼロサムではない。多くの政策当局者は自国でクラスターを積極的に推進しており、グローバル人材はその重要な要素となる。しかし、政策当局者は脆弱な点に対処しなければならない。

脆弱な点

人材クラスターの内部で不満が発生する可能性がある。成長は良いことだが、度が過ぎると良くなくなる。これは、住宅価格の上昇に対する怒りと移民への支持の低下に最も顕著に表れている。特にカナダでは、(歴史的観点からは比較的支持的であるものの)移民への支持が低下している。過密状態の学校や病院についても怒りが表面化する。ここでの真実は複雑である。

グローバル人材は多くの場合、すでに存在していた危機について、その原因となったとして非難される。例えば、住宅不足の根源が移民であることは稀で、原因は新規建設を抑制する厳しい規制である。

それでも尚、政策当局者はこうした緊張があることを認識しなければならない。財界のリーダーは、労働者を採用したいという目的で、雇用に基づく移民を後押しすることがよくある。これは、企業がグローバル人材を活かす余地があること、そして生産を拡大する余裕もかなりあることを明らかにしている。ヘルシンキやシリコンバレーで生まれる発明は、グローバルサプライチェーンを通じて世界で活かせる。しかし、住宅や学校など、地域のその他の要素は、容量が限られており、容量拡大に時間がかかる可能性がある。政策当局者は、世界各地から人が入ってくるペースを制御し、付随するボトルネックを緩和することで、これらの緊張を管理しなければならない。これらの補完的な取り組みに秀でる国は、グローバル人材を最大限に活かすことができる。

不満のもうひとつの源は、人材クラスターの中にいる者と外にいる者の間に生じる緊張である。雇用に基づく移民であっても、経済よりも政治の要素が重要となる。人材クラスターに住む高学歴の人々(「エリート」)に不信感を抱いたり、あからさまに嫌ったりする傾向がある人々は、グローバル人材(「外国のエリート」)に対してさらに懐疑的な見方をすることが考えられる。

これらの緊張を緩和することに長けた政策当局者は、高技能移民に関して一般市民からより高い支持を得ることができる。例えば、米国では、グローバル人材を全国により均等に分配する 「ハートランド(米中央部)ビザ」への関心が高まっている。グローバル人材を農村部に配置しても、主要なクラスターのような生産性の向上は見られないかもしれないが、政治的には、より広範な支持を得られることと、国がより多くの利益を共有することが大事である。

彼女は承諾するか

グローバル人材をめぐる将来の競争において、各国はじきに、移民を単に受け入れるのではなく、呼び込まなければならないことに気づくであろう。グローバル人材の流れは、AIのような新興分野に未開拓人材を惹きつけるために不可欠なのだ。現在、移民に対して懐疑的な見方があっても、賢明な政策当局者は、永続的な悪影響をもたらすような目先だけの対応を避けるだろう。グローバル人材を惹きつけるための重要な考慮事項とは何か。

まず、「教育の経路」に注意を払わなければならない。雇用に基づく移民は、学校の選択と絡み合っている。多くの雇用主は、就労ビザを提供することで大学を卒業した若い人材を採用する。また、加藤隆夫氏とチャド・スパーバー氏の研究は、最も質の高い学生が将来の労働機会を踏まえて学校を選択していることを示す。学校と労働の政策は多くの場合うまく調和せず、学業を終えて就職するまでの移行が骨の折れるような過程であったり、一国が最も維持したい人材(そして多くの場合、その人を教育するのに公的資金を投じてきた人材)を追い出したりさえしてしまう。政策当局者は、移民パイプラインの各要素(学生ビザ、就労ビザ、永住権など)のバランスが確実に取れているようにしなければならない。

2に、グローバル人材の追求と、地域の投資は補完的なものである。どこの学区にするか、またはどこでキャリアをスタートさせるかについての選択は、多くの場合、住宅購入のような投資に似ている。この長期的な視点は、グローバル人材が、優れた学校、質の高いインフラ、安全な地域など、現地の住人と同じ立地要件の多くを優先することを意味する。さらに、移民の起業家が創ったビジネスは、現地の労働力を活用する。したがって、グローバル人材を追求することは、地元の学校や公共財への投資に代わるものではない。

3に、政策の不確実性は長期投資を抑制する。不確実性は、化学工場の開設や結婚、学校やキャリアの機会のための国外移住など、長期的で大きな選択をする際に思いとどまる要因となる。米国のアプローチを含む多くの移民制度は、機能しているものの必ずしも分かりやすいものではない。それは移民が、自分たちの投資が最終的に認められ、適切に報われると確信している限り、問題なかった。移民が、そうした制度の持続性と約束を果たす可能性への信頼を失うと国の魅力が実に低下する。優秀な人材を惹きつけるためには、安定した政策基盤が不可欠である。

4に、移民政策は柔軟であるように設計されなければならない。カナダなど一部の国は「移民設計」(政策を実験し、観察された結果に基づいて政策を微調整し、実践によって新しい情報が明らかになるたびに再調整する能力を指す言葉)する力がある。対照的に、米国は数十年に一度、大規模な変更を施す。柔軟性に欠ける政治環境にある政策当局者は、簡単に指数化できるデータ(人口増加等)に基づいてビザの上限を自動的に調整するなど、政策に柔軟性を組み込む必要がある。

最後に、移民政策は希少な移民枠を効果的に配分しなければならない。移民の優先事項と選択のメカニズムは国によって異なる。経済や雇用に基づく移民の場合、多くの制度では、抽選や先着順の手法を採用しており、真に希少なスキルを優先していない政策当局者は、最適な候補者が選ばれるように、手法を見直す必要がある。これにより、人材の流入による経済的影響が最大化され、移民に対する政治的支持が強まる。

そして、小見出しで触れたように、グローバル人材の流れにおいて男性よりも女性の方が多いとみられる。2010年までに、経済協力開発機構(OECD)諸国における女性の高技能移民の数が男性を上回った。大学への女性の入学者数が男性の入学者数を上回る傾向が続くにつれて、この差は拡大し続けるかもしれない。政策当局者は、グローバル人材の流れに関するイメージにおいてこの現実を捉え、女性が潜在的な目的地で重視する要素を熟考すれば、十分な利益を得ることができるであろう。

競争力があり、勝利を収めるチーム

先見の明のあるリーダーたちは、高齢化であれ、生産性の低下であれ、気候変動であれ、世界の政治的緊張の高まりであれ、明日の課題をうまく乗り越えることを望んでいる。企業と同様に、競争力のある勝利を収めるチームを構成することは、力強い国の成功に不可欠となる。知識労働への移行に伴い、企業は 「人事機能」を、従業員の採用や人事コンプライアンスのためのバックオフィスサポートから、戦略的な議論に影響する役割へと、ますます重きを置くようになっている。多くの場合、人材へのアクセスは企業の戦略を決定するため、人材と戦略はまとめて策定しなければならない。同じことが国にも言える。

移民を送り出した母国の福祉はどうか。一部の国は人材が海外に移ったために損をしたが、他の多くの国は得をした(「頭脳流出」と「頭脳獲得」と大雑把に表現されることもある)。国と国の間のつながりの強さと、受け入れ国の企業がグローバル人材の母国と経済的に関与したいかどうかに大きく依存する。一部の母国は、私の本で説明しているように、こうしたつながりを強化するための政策を展開している。意外なことに、母国にとって、グローバル人材の流れから得る最も大きな恩恵は、海外移住を希望する若者の教育レベルが上がることかもしれない。なぜなら、多くの生徒が結局、受け入れ国に定住しないからである。

受け入れ対象を、すべての労働者から大学教育を受けた労働者、そして発明家、さらにはノーベル賞受賞者へと絞る中、労働力に占めるグローバル人材の割合は絶えず増えている。各国が先端技術の採用に向けて導入する国家戦略は、国内外の多くの要素によって形成される。そして、グローバル人材へのアクセスは、一国の可能性を拡大する。F&D

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ウィリアム・カーは、ハーバード・ビジネス・スクールのダーベロフ経営学教授であり、 The Gift of Global Talent: How Migration Shapes Business, Economy & Society(グローバル人材の贈り物:移民がビジネス、経済、社会をどのように形作るか)の著者。

記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。

<参考文献>

Chattergoon, Brad, and William Kerr. 2022. “Winner Takes All? Tech Clusters, Population Centers, and the Spatial Transformation of U.S. Invention.” Research Policy 51 (2): 104418.

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Kerr, William. 2018. The Gift of Global Talent: How Migration Shapes Business, Economy & Society. Stanford, CA: Stanford Business Books.

Kerr, William, and Frederic Robert-Nicoud. 2020. “Tech Clusters.” Journal of Economic Perspectives 34 (3): 50–76.

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