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各国は地球温暖化と同時に債務を抑えよ

気候移行を管理するには、政策を適切に組み合わせる財政の綱渡りが必要だ。

地球温暖化を食い止めるチャンスが急激に縮小している中で、多くの国が排出量削減の政策を追求している。一部の国では、再生可能エネルギーへの公共投資や補助金を拡大するなど、歳出措置に大きく依存している。脱炭素化の努力は歓迎すべきだが、こうした政策には大きな財政コストを伴う場合もある。

気候変動への対応は厄介なトレードオフを政策当局者に突きつけている。気候変動対策の目標を達成するために歳出措置へ大きく依存し、その規模を拡大しようとすると、コストはどんどん膨れ上がり、2050年までに債務が対GDP比で45%から50%増大する可能性がある。多額の債務や金利上昇、弱い成長見通しは、財政のバランス取りをさらに困難にするだろう。だが、旧態依然のやり方では、世界が温暖化に対して脆弱になってしまう。各国にはカーボンプライシングを通じて歳入を増加させ、債務負担を軽減する方策があるが、カーボンプライシングに頼り切っては政治的な一線を越えしまう恐れがある。

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従って政府は「気候変動対策の目標」、「財政の持続可能性」、そして「政策の実現可能性」という政策上のトリレンマに直面している。すなわち、ふたつの目標を追求すれば、第3の目標を部分的に犠牲にしてしまうのだ。

IMFの最新の財政モニターでは、このトリレンマを管理する方法について新しい考察を提供している。各国政府は大胆かつ敏速に連携の取れた施策を打つ必要があり、歳入と歳出双方に基づく緩和措置の最適な組み合わせを探らなければならない。

必要とされる賢明な政策

気候目標を達成できる単独の措置は存在しない。ウィリアム・ノードハウスらも指摘しているように、排出量を削減する上でカーボンプライシングは必要だが、必ずしも十分ではない。カーボンプライシングはどんな政策パッケージにおいても不可欠な要素である。チリ、シンガポール、スウェーデンなど様々な開発段階にある諸国の成功体験では、カーボンプライシングに伴う政治的なハードルは克服できることが示されている。こうした体験から得られた所見は、カーボンプライシング計画を既に実施している約50か国の先進国・新興市場国だけでなく、導入を検討中の20か国を超える国々にとっても有用である。

しかしカーボンプライシングだけでは十分ではないため、これを補完するために他の緩和ツールを活用することで、市場の失敗に対処し、低炭素技術の革新や展開を促すべきだ。実践的かつ公平な提案では、経済開発の水準に応じて国の間に差を設けながら、国際的な炭素価格の下限を設定するように訴えている。関連して生じる炭素収入の一部は、グリーン移行を円滑化するために各国間で分配できるだろう。公平な移行を図るためには、脆弱な世帯や労働者、コミュニティへの強固な給付措置も必要である。

財政コストは歳入政策と歳出政策の組み合わせによって異なる。IMFの分析によれば、気候変動対策として既に成立した歳入措置と歳出措置を適切に組み合わせて優先付けることにより、気候目標を達成しつつ、排出量削減の財政コストを抑えられる。追加の歳入措置または歳出措置を講じない限り、先進国の公的債務は2050年までに対GDP比で10%から15%増加することが分かっている。ただし、この推計値は政府予算、投資と補助金の規模、家計への補償、化石燃料への依存度における各国の差を反映するため、大きな不確実性をはらんでいる。カーボンプライシングを見合わせれば高いコストが生じ、1年遅れる毎に、公的債務が対GDP比で0.8%から2.0%増大する。

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新興市場国において、気候変動対策パッケージから予想される債務の増加幅は先進国と同程度になる見込みだが、各歳入・歳出措置の寄与度が著しく異なる。その理由としては、見込まれる炭素収入が大きい一方で、投資ニーズが高いことや、債務水準に左右される借入コストが高いことが挙げられる。政府予算に余裕がある国であれば、こうしたポリシーミックスを受容できるかもしれない。しかし、大きな適応の必要性や持続可能な開発目標を達成する野心に加えて、既に多額の債務や上昇する利払いコストを踏まえると、多くの新興市場国と発展途上国にとって、債務の増加は特に悩ましい問題となるだろう。

このような課題を切り抜けるために、政府は歳出を効率化しなければならない。また、課税ベースの拡大や財政機関の改善を通じて、税収入を増やす能力を築くべきだ。

共通の責任

気候変動の脅威を単独で解消できる国は存在しない。公共部門も独力で対応することはできない。気候ファイナンスのニーズの大部分は、民間部門が満たさねばならないのである。財政モニターでは、エネルギー移行における企業の役割を考察している。ドイツと米国の両国の調査によれば、企業は2022年のエネルギー価格急騰に際して強靭性を発揮しており、生産と雇用への影響は限定的だった。そして多くの場合、企業はエネルギー使用量を削減し、エネルギー効率に投資することで適応を図った。

政策当局者は企業の努力を調整する必要がある。新興市場国と開発途上国が直面している課題では、グリーン移行を支援するための譲許的融資、そして知識の移転や定評のある低炭素技術の共有化が求められている。例えば、IMFの「強靭性・持続可能性トラスト」は、経済の強靭性を強化し、改革を支援するための長期融資を提供している。各国政府は、ナイロビ宣言やアフリカ連合のG20加盟など、最近の声明の勢いに乗ることで、国際的な炭素価格の下限に関して世界規模の現実的な取り決めを推し進め、開発途上国を支援すべきである。