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発展途上国がグリーン移行を活かす方法

あなたが発展途上国の財務大臣であると仮定しよう。ある熱心な環境保護主義者が、温室効果ガス排出量削減の道徳的な義務をあなたに納得させようとしている。どれも以前に聞いたことのある話で、すぐに興味を無くし、より差し迫った問題に心が動く。この国では、不安定な経済やインフレ、公共サービスの資金調達難まで、多くの問題を抱えているため、排出量の削減は優先事項ではないのだ。

たとえ成功したとしても、気候への影響はわずかにとどまる。パキスタン、ナイジェリア、エジプトのような人口の多い国が世界の排出量に占める割合は、それぞれ1%未満だ。あなたの国の排出量は、産業革命以来の累積でさえも限りなく小さい。排出量をゼロにしたとしても、気候に重大な影響はない。費用がかさみ、経済成長の機会を失うだけでなく、それに見合う成果はほとんどないように思われる。

しかし、気候変動を任務の重要な一部として考えないことは大きな間違いである。気候変動による大惨事を防ぐためには、世界が排出量を削減する必要があることを各国が認識しているため、世界経済の至る所で変化が起きている。脱炭素化の目標が掲げられる中、汚い商品・サービスに対する需要が減り、よりクリーンで環境に優しいものに対する需要が増えるだろう。問題は、自国の排出量削減のために何ができるかではなく、世界の排出量削減やネットゼロの達成に役立つ急成長産業への参入によって、どのように自国の発展を強化できるか、ということである。

あなたの国の歴史は、、国内で作り、海外で販売できる数少ない製品の開発によって基本形成されている。東アジアと東欧で成功を収めた経済国は、衣料品から電子機器、機械、化学品に至るまで、比較優位がある分野をさらに強化することで、数十年にわたって高成長を保ってきた。過去に栄えた産業にすがったままではない。より高賃金の雇用を創出したいのであれば、高賃金でも競争力を保てるような、成長と輸出が可能な新しい産業を見つける必要がある。

悲観論者は、日本や韓国、中国などには過去に機会があったかもしれないが、発展への道は現在閉ざされたと言う。しかし、脱炭素化は、特に行動が迅速な国にとっては、新たな機会を生み出すだろう。目の前に広がる道は、多くの先人が歩んだものではなく、未踏の道もある。脱炭素には多額なグリーンフィールド投資が必要であり、工場建設のための新たな場所を見つける必要もある。これは自国にとって素晴らしい機会になる可能性があるが、それを評価するためには、変化する情勢を理解しなければならない。

どのような技術が低炭素世界経済を推進するのか、そのためにどのような材料や製造能力が必要か、そして世界がどのような規制体制を採用し、どのような協力や紛争が最大排出国間の関係を特徴付けるのかは不明瞭である。これらの不確実性は、積極的な役割を果たし、将来の比較優位を支える能力を習得した国によって解決されるだろう。機会や脅威を検討および利用する際には、以下の6つのテーマを心がけよう。

1. 世界的な電動化を受け入れる

世界の排出量の70%超がエネルギー使用によるものである。脱炭素化のため、世界は現在の化石燃料によるエネルギー生成を電動化し、風力や太陽光などの環境に優しい供給源から発電する必要がある。これには、大量の太陽光パネル、風力タービン、電気ケーブル、蓄電器、およびリチウムイオン電池などのエネルギーを蓄えるメカニズムが必要となる。電気を水素に変換したり、戻したりするために、電気分解装置や燃料電池も必要になる。これらすべての製品には、金属や希土類元素が多く使われている。世界がネットゼロを達成するためには、これらの鉱物の生産量を数倍に拡大する必要があるため、ネットゼロには鉱業を急成長させなければならない。

鉱業自体は非常にエネルギー集約的な産業である。将来的には、鉱業に使用するエネルギーもグリーンであることが必要になる可能性がある。地元の環境にも影響を与え、水を大量に消費する。ほとんどの国は、投資にオープンであると同時にこうしたリスクと利益相反を適切に管理できる制度を実施できていない。

そして、これらの鉱物を電動化に必要な資本財に加工する必要がある。これには、長くグローバルな製造バリューチェーンが必要だ。今日、リチウムイオン電池を製造するための大工場が多く建設されているが、主に中国、欧州、米国を拠点としている。発展途上国に建設されないのはなぜだろうか。これらの工場を備える条件はそろっているのだろうか。そうでない場合、欠けている条件を補うことはできるだろうか。

世界の脱炭素化に伴って成長する産業もあれば、縮小する産業もあり、そのような産業はあなたの国にも存在する可能性がある。高排出である、または高排出のバリューチェーンに対するサプライヤーであることを理由に、逆風を受ける輸出産業を特定する必要がある。自国の既得権者は、世界の温暖化をでっちあげだと片付け、環境保護政策に反対するよう働きかけるだろう。それでも、これらの世界的なトレンドに影響を受けないわけがない。想定よりも早く、これらの業界にいる途上国の会社は資金調達へのアクセスに苦労するだろう。資本市場は資金供給先の資産が座礁することを恐れているからだ。より有望な機会に資源を再配置する方法を見つけなければならない。

2. 再生可能エネルギーの入手容易性を利用する

太陽が輝き、風が吹いている国は数多くあるが、ナミビア、チリ、オーストラリアなどの一部の国は、これらの資源を使ったグリーンエネルギー製品の生産に特に力を注いでいる。これは、より約束された未来を築くための第一歩かもしれない。理由は以下の通りである。

石油と石炭は非常にエネルギー密度が高く、単位重量と体積あたり多くのエネルギーを含んでいるため、その輸送は安価なものになる。もし井戸から採取した石油に1バレル当たり約100ドルの価値があるなら、世界を半周する輸送にかかる費用は4ドル以下になるだろう。そのため、石油と石炭はエネルギーの観点から世界をフラット化したといえよう。エネルギー不足の国でも、エネルギー集約型製品で競争力を持てるのだ。例えば、中国、日本、ドイツは鉄鋼の主要輸出国であるが、エネルギーの輸入国でもある。

しかし、これは石油の代替品にはあてはまらない。例えば、天然ガスには市場間で大きな価格差がある。液化天然ガスの液化や輸送の難しさとコストのためだ。太陽光に恵まれた国では、1メガワット時間当たり20ドル未満で太陽エネルギーを生産している。同エネルギーを長距離移動させるには、アンモニアなどの分子に蓄えなければならないが、この転化はエネルギーのコストを6倍に増やす(輸送コストを除く)。そのため、再生可能エネルギーを現地で使用する大きなインセンティブが生まれるのだ。エネルギー集約型産業は、グリーンエネルギーが豊富な場所に移動するだろう。あなたの国はそのような場になれるだろうか。

3. 資本コストを低く抑える

太陽光や風、雨、これらはすべて無料である。再生可能エネルギー生産のコストのほとんどは、機器の固定コストであり、その購入のための資本コストも含まれる。そのコストはどれぐらいになるだろうか。ドイツの場合、資金調達コストが2%ほどで済むかもしれないが、ドミニカ共和国では7%かかるかもしれない。ドミニカ共和国がドイツよりも太陽光に恵まれているにもかかわらず、太陽エネルギーのコストはより安価とならないのだ。熱帯地方では太陽光が強いものの、資本市場がこれらの地域を敬遠するため、比較優位が逆転してしまうという大きな問題だ。カントリーリスクを低く抑える良い制度とマクロ経済運営が、資本コストの重要な決定要因であるため、各国のグリーンエネルギーにおける競争力を決定する要因ともなる。

世界の多くの国は、マクロ経済や鉱業部門のガバナンスでの失敗により、天然資源を浪費している。ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を有するとされるが、石油収用や資本市場を遠ざけたマクロ経済の不適切な運営により、石油生産量は1998年のピークから80%減少した。同様の運命は、リチウム、コバルト、銅、アルミニウムなどのグリーン移行に必要な金属資源を有する国々にも待ち受けている可能性がある。

4. 技術的リスクを管理する

技術的な不確実性は常に伴うものである。スマートフォンが目覚まし時計、カメラ、CDプレーヤー、そしてパソコンに取って代わると誰が考えただろうか。今日、太陽が輝き、風が吹いている時の1メガワット時の太陽エネルギーは、火力発電所での同メガワットの発電に必要な化石燃料よりも安い。10年前には想像できなかったことである。

ネットゼロ達成までの過程で、どの技術がレースに勝つかはわからないが、多くの技術がレースに参加していることは分かっている。これらは、最初は科学論文や特許にアイデアとして登場したものだ。その後試験的に実施され、最終的に商業プラントに移行する。世界中の国々がどの技術に賭けているかについて、アンテナを張っておくべきだろう。

技術的な監視は産業界では定期的に行われているが、これを適切に実施している政府はほとんどいない。イスラエルとシンガポールの経済省は主任科学者を任命しており、最も有望な研究開発に賭けられるよう、来るべき変化についての予測を行っている。チリは豊富なリチウム資源を持っており、政府はリチウム研究センターと世界中の大学による共同事業体に投資している。リチウムの代替品となりうるものを探しながら、コストを削減し、リチウムの使用を向上させる可能性のある技術でリードできるようにするためだ。

5. 炭素吸収源を探索する

ネットゼロは、二酸化炭素の排出ゼロとは異なる概念である。その違いは炭素の吸収であり、将来はそのための市場が創出される可能性がある。森林伐採地の再植林や既存の森林の保護により、炭素クレジットを取得できるかもしれない。例えば今日のアマゾン川では、人々が木々を伐採している。家畜の放牧に土地を利用する方が利益を得られるためだ。しかし、炭素価格が合理的であれば、1ヘクタール当たりの森林が吸収できる炭素量の価値は牛肉よりも高くなる。残念ながら、今日の炭素価格は合理的でない。多くの国では存在すらしておらず、存在する国でも欧州のごく一部の価格である。価格はあまりにも低く、森林を牛の放牧よりも価値のあるものにすることができない。

良好に機能している市場であれば、空気は世界共通であるため、炭素価格はグローバルに均等化されるべきである。しかし、市場は、今年森によって吸収された炭素が、翌年に放牧のために森林が伐採され、また大気に戻ってしまう可能性もあるとし、懐疑的だ。そのため、炭素クレジットは大幅な割引で取引されている。信頼できる炭素クレジット制度を整備する必要がある。

吸収源は他にもある。あなたの国には、吸収された炭素の貯蔵に理想的な地質構造があるかもしれない。その場所を特定し、安全で密封されていることを証明する必要がある。投資が行われ、貯蔵スペースの賃貸料を徴収することができるよう、これら地質構造上の財産権を定義する必要がある。これには幾らかの作業が必要になるだろう。不要な残留物を地下に埋めることではなく、価値のあるものを地面から取り出すことを想定して法律が制定されているためだ。長期的な炭素吸収源市場の開発は、森林を保護し、地下に新たな価値を見出し、世界の脱炭素化を支援することができる。

6. 学習を計画する

未来を形成する技術や産業に今日秀でている国はない。しかし、これから習得する国もあれば、そうでない国もある。あなたの国が先頭グループを走れるようにするためには何をすべきか。不得意なことを避け、得意分野に集中すべきというアドバイスはあまりにも頻繁に聞かれる。現在の比較優位分野に注力するだけでは、成長は実現できない。その強みを進化させることも必要だ。フランスは長きにわたって、ワインやチーズを強みとしてきたが、民間航空機や高速鉄道も得意分野とした。電解槽の製造に競争優勢性を発揮できるようになるのはどの国だろうか。太陽と風を強みの源泉に変えられるのはどの国だろうか。それは、戦略的投資とグローバル人材の誘致、および大学などでの研究プログラムの支援による技術導入の促進に注力する国だろう。国内市場を閉鎖することで達成することはまずない。

自国の二酸化炭素排出量削減を優先させることで、世界の脱炭素化に貢献するよう各国に求める枠組みは、有用とは言えない。世界の脱炭素化を支援することにより、自国で価値や、人々の生計を立てる手段を創造することが、より有効な提案となるだろう。これらは新しい挑戦であるため、新しいプレーヤーにも開かれているはずである。あなたの国も例外ではない。大きな成果が期待できるだろう。

リカルド・ハウスマンは、ハーバード大学のGROWTH LABの創設者兼所長、ハーバード・ケネディ・スクールの国際政治経済実践学のラフィック・ハリリ教授。

記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。