Credit: BrianScantlebury/iStock by Getty Images

デジタル通貨を慎重に管理することで、太平洋島嶼国の成長と平等を支援し得る

太平洋島嶼国地域は、周到かつ段階的なアプローチを取ることで、リスクを管理しつつ経済的・社会的利益をもたらす新技術を効率的に模索しやすくなる

太平洋島嶼国は、決済システムの開発や金融包摂の拡大、そしてコルレス銀行との関係低下の緩和によって、デジタル通貨革命の好機を掴むことを望んでいる。

世界でも類を見ないほど広く離れて位置するこれらの島嶼国は、小規模国家であることや地理的な特性等により、金融サービスと包摂性の課題に直面している。金融サービスへのアクセスが限られ、かつ不平等であることから、貧困や格差が根強く残っている。‌また、国外送金への依存度が高いことから、コルレス銀行との関係が弱体化すると、特に強い影響を受けてしまう。

IMF

 

IMFの最新研究では、ステーブルコインといった太平洋島嶼国地域におけるデジタル通貨や中央銀行デジタル通貨(CBDC)の潜在的な役割を探る。裏付けのない暗号資産に関しては、通貨の定義に合致しないため、議論から除外する。

世界各国の結びつきが強まる中、デジタル通貨や関連する技術革新は、効率性、アクセス性、安全性の面で利点がある。適切な設計が施され、統治されたデジタル通貨は、金融包摂や国境を越えたつながりの拡大といった政策目標を達成するための一助となる。また、今まで十分なサービスを受けられなかった人々は、金融サービスや政府の支援を利用できるようになり、可能性が広がる。

むしろ、適切な準備やセーフガードなしにデジタル通貨を導入してしまうと、経済や金融市場が混乱しかねない。混乱状態が長引くと、適切な対応能力を持たない国は深刻な金融安定性リスクに陥る可能性すらある。また、デジタル通貨によって資金洗浄やテロ資金供与に係る新たな脅威が生まれるかもしれない。

太平洋島嶼国やその他同様の国々は、デジタル通貨の導入において規模やリソースの面での制約がある。デジタル通貨を無事に導入する上で必要なデジタルインフラや(法制、規制および監督上の)制度的枠組みは、未整備であることが多い。加えてこの地域には、研修、運用、技術発展等に高い開発コストを充てる余裕のない国が多く存在する。

デジタル通貨を受け入れるには、安定性、安全性、アクセス性の面で優れたインフラが基盤になくてはならない。サービスプロバイダーは、持続的に収益を生み、コストを賄えるビジネスモデルを作り出すことが求められる。また、この地域の多くの国々では国民所得に占める観光収入の割合が大きいことから、観光客もが使いたくなるような魅力を備えたデジタル通貨が必要だ。サービスプロバイダーの義務、ユーザーの権利、監督当局等の責任と同様に、デジタル通貨の法的地位も明確化されるべきである。

政策上の検討

 

最終的に、デジタル通貨の導入は、制度的な能力を十分に備えていることに加え、自国通貨の有無や国内決済システムの成熟度等通貨や金融に係るさまざまな情勢を勘案し、決定されるべきである。自国通貨を持つ国は、ゆくゆくは今後数年でCBDCを導入できるようになるかもしれない。

銀行や決済サービス業界の成熟度を見ると、どのようなデジタル通貨や設計を選択すれば太平洋島嶼国にとって最善であるのかが分かるかもしれない。例えば、二層構造のCBDC(中央銀行が発行し、運用を民間の仲介機関に委託するもの)は、自国通貨を持ち、銀行や決済プロバイダーが成熟している国にとっての最適解となり得る。また、自国通貨を持たない国では外貨ベースのステーブルコインが現実解となり得るが、これにはしっかりとした規制と監督が求められる。

太平洋島嶼国は、関連リスクを管理しながら、新たな形態のデジタル通貨や決済システムを導入する上での地域的アプローチを模索することができるであろう。そのためには、従来の国内決済システムの連携、CBDC導入後の相互連携、多国間電子決済プラットフォームや地域ネットワークの確立・参画が必要となる。また、各国の組織や開発パートナー、そしてIMFといった国際機関との知識共有も考えられるであろう。

IMFでは、太平洋金融技術支援センター(PFTACを含め、30年に渡る域内での研修や技術支援のみならず、域外から関係者や上級政策当局者を招き、知見を共有してもらうといった方法でも支援してきた。

 

***

 

本ブログ記事は、IMF Departmental Paper: デジタル通貨の台頭:太平洋島嶼国への影響に基づき、以下の人物による研究の貢献を反映している。タオ・スンアルヴィンダー・バラスステファニー・フォルテキャスリーン・カオインチウ・リューマリア・フェルナンダ・チャコン・レイピヤポーン・ソッドスリウィブーンチア・イー・タンボー・ザオ。太平洋地域におけるIMF活動の詳細については、IMF副専務理事の李波と太平洋島嶼国課長兼フィジー担当ミッションチーフを務めるマーシャル・ミルズ共著の最新の解説を参照。